2016年8月16日火曜日

ヌエバドランゴのシャーマン農家

ルナティック・アグリカルチャー


マヤ遺跡の中でも数少なくなってきた、登れるピラミッドがあるコバ遺跡。
コバは500年〜800年頃に栄えたマヤの都市国家の一つですが、その近辺には今もかつての時代に近いような暮らしを送っている人々が住んでいます。





マヤの人たちや中南米の先住民の農法で、月の暦を指針とした自然農法、ルナティック・アグリカルチャーと呼ばれている方法があります。
私がこの農法を知ったのは、北海道は長沼町の図書館で借りた1冊の本、「月と農業/ハイロ・レストレポ・リベラ」がきっかけでした。


中南米に広く伝わるこの農法では、新月から満月へと月が満ちていくとき、つまり月が膨らんでいくときに水分(養分)は植物の上部へ拡散していき、満月を中心とした前後3日間に水分(養分)は樹冠の葉、花、果実に集中するとされています。


そのため、播種は月が膨らんでいくとき(新月から満月)に行われ、収穫は満月の前後に行われます。
満月が近いとき作物には水分(養分)が集中しているので、その時が旬で最も美味しく長持ちするそうです。


月の満ち欠けが潮の満ち引きを作り出すほどの強い力があるのだから、植物内部の水分も同じように影響を受けるという理論は至極当然なのではないかと感銘を受けました。





コバの町から縦に伸びる道を北上すると、ヌエバドランゴという小さな集落があります。
そこで、今もなおマヤの暮らしを続けている家族の元を訪れる機会がありました。





彼らは自分たちの家を開放しており、訪れる観光客を受け入れています。
家では民芸品を売ったり、マヤの文化を紹介しています。
私たちとはスペイン語で話してくれますが、家族間の会話はマヤ語です。







お父さんは現役のシャーマンで、観光客が来たときには家族みんなで楽器を演奏してくれるそうです。








食事の煮炊きは薪や炭を使っています。
祭壇にはたくさんのグアダルーペが祀られていました。






家の裏には教会も。
マヤの暮らしを続けている地域ですがキリスト教も根付いています。






幸運にも彼らの畑を見学させてもらう事ができました。
本で読んでいた月の農法を実践している農家さんの畑なので、胸が高鳴ります。




家の裏の雑木林を抜けていくと、急にぽっかりとした空間が広がり畑が現れました。


以前読んだマヤ文明に関する本では、マヤ文明が衰退した原因の一つには人口増加による食糧難が起き、その際に森林を伐採して畑を切り開いたために循環していた環境が破壊され生態系が狂ったことが原因だとする説が唱えられていました。


その経験が現在に伝わっているのか、はたまた読んだ本の情報が違っているのか、シャーマン農家のお父さんは

「マヤの世界では土地の形を形成する事は禁じられているので、自然の地形に手を加えない」

とおっしゃっていました。





雨期の前に豊穣を願う儀式を行い、月の暦に従って種を蒔き、その後はほとんどほったらかしのようです。
自然のサイクルにのっとった自然農法。
現代の農法と比較すると非効率な部分もありかもしれませんが、マヤの人たちはこの営みを2000年、もしかするともっと長い時間続けています。









育てていた作物はトウモロコシとカラワサ(ズッキーニかかぼちゃ)。







ユカタン特有の石灰質の地表の上に軽く表土が乗っている程度。
決して肥沃な土壌には見えませんでしたが、作物は力強く育っています。






畑の真ん中には木が組まれていました。
聞くと炭を作っているそうです。
畑での炭作りはただ森林を切り開く焼き畑農法と違って、炭もできるし土壌も肥沃になるので、より環境負荷の少ないサスティナブルなアイデアです。






組んだ木の上に土をかぶせ、燻すように燃やし続ける事3日間。






火を見守り続ける必要があるため、炭を作っている期間はハンモックで夜を過ごすそうです。





出来上がった炭。
木を切り、盛り土を施し、燻し続ける。
約1週間かけての仕事。









雨が降らなければ作物は育たず、作物が育たなければ飢えてしまう。
それでも効率化を図る事はなく、彼らは月の力を信じ、祈りを続けています。
彼らにとってはその方が効率的なのでしょう。



トウモロコシを育てるために月の暦を、天体の活動を取り入れる農法、ルナティック・アグリカルチャー。
彼らの育てたトウモロコシには宇宙の大きな活動が、植物の中の小さな循環に落とし込まれています。
壮大なスケールだけど、とてもシンプルでもある農法。


収穫は雨期の終わりだそうです。
ぜひとも食べてみたい!

2016年8月1日月曜日

ユカタン半島の材木事情



ユカタン半島は奥が深く、まだまだ知らない事がたくさんありますが、実は世界的に貴重な木材の宝庫だという事を最近知りました。
木の種類なんて日本に住んでいた時は全く興味のなかった分野ですが、メキシコではプラスチックなどの石油製品の値段が驚くほど高く、反対に木製品の値段が安いので必然的に木で出来たものを選ぶ機会が多くなります。


Catalox



メキシコの賃貸物件は家具付き物件もあるのですが、私たちが借りた部屋は家具無しの物件で、引っ越して来たときには椅子が4脚あっただけ。
そのため、生活に必要な家具を自分達で全て揃える必要がありました。



時間はあるけど予算には限りがある私たち。
生活に必要な家具をスーパー、家具屋、リサイクルショップと何件も見て回ったのですが、どこを見ても机や椅子が非常に高い。
しかも、合板にペラペラの塗装をしたようなテーブルでも平気で8000ペソくらいします。椅子も1脚1000ペソ近い値段。
これにこの値段を出すのはちょっと…とためらってしまうコスパです。


そういえば、日本もニトリやIKEAがない時代は家具が高かったなあ…と思い出しました。



どうしたものかと考えながら決めきれずに探し続けていると、カルピンテーロに頼んでも既製品と同じくらいの料金で作ってくれるという事がわかりました。
カルピンテーロは、大工さんでもあり木工制作もしてくれる職人です。



Tzlam



そこで、木製の家具、机や椅子はカルピンテーロに頼んで作ってもらうことにしました。
メキシコは職人文化が色濃く残っており、各家庭にお抱えの職人がいます。
たくさん職人さんがいるのは嬉しいことなのですが、全員が素晴らしい仕事をしてくれるわけでは決してなく、相性の見極めがとても重要です。


職人さんと付き合いをしていく上で、何を一番大切にしたいのか。
値段、デザイン、といった技術的な部分から、電話に出る、期日を守る、といったパーソナリティーな部分まで、いろいろなポイントがあります。
当然、すべてを兼ね揃えている人はいないので、どこかを諦めて、大事な部分を守ってくれる相手と仕事を進めたほうがいいと思います。


電話に出てくれない人もいれば、連絡が途切れる人もいるし、足元を見て料金をふっかけてくる人もいる。親切に見積もりをすぐに出してくれるけど、使っている木やデザインがどうも合わない人もいたりして。


私たちも悩んだ結果、使っている木の種類が多く、電話連絡が確実についたPuerto Aventurasのカルピンテーロにお願いすることにしました。



電話も出るし木もたくさん持ってるし良心的な値段。
でも、肝心の腕が足りなかった惜しいカルピンテーロ。



なぜ私たちが職人を選ぶポイントを、木にこだわっているカルピンテーロにしたかというと、グアナファトに住んでいたときひどい目にあったことが原因です。





あれは、グアナファトで家を初めて家を借りて、今と同じように家具を集めていたとき。ベッドの下の土台を探していました。
ベッドの下ってなんていうんですかね?こちらでは Baseと言います。


Baseもこれまた結構いいお値段がするので、まだグアナファトに長く住むかどうか決めていなかった事もあり、とりあえず最初は近所のメルカドで売ってる野菜用の木箱を少しずつ買い集め、それを長方形に12個並べてBaseにしていました。
しかし、木箱はどれも同じサイズのように見えたのですが、全て手作りであるがゆえに微妙にサイズが違いどうしても隙間ができてしまいました。


いまいち深く眠れないな。。と思っていたある日の学校の帰り道、道端でBaseを400ペソで売っているのを見つけました。新品の半額ぐらいの値段です。
サイズもぴったりだったので、すぐに売ってた人に声をかけてその場で購入。
いい買い物をしたと喜んで家まで運びました。
そのBaseにChinches(ダニ)が住んでいることもしらずに。。。


まさかそんなことがあるなんて、都会育ちの私たちには想像することもできず、Miaはその後3ヶ月くらい原因不明の痒みに苦しみ、病院に通うはめになりました。。。(原因はもちろん  Chinches。。)
何度痒さで眠れず涙で枕を濡らしたことか。。





そんな地獄のような辛い経験を経て、家具の木は慎重に慎重にチェックしなくては!という思いが強かったのです。
そこで、絶対に虫のつかない木にしてくれ!とカルピンテーロに言うと、
「ユカタンには硬い木が多くて、虫が木の中に入れないから大丈夫だ。それにうちは完全消毒するから絶対虫は出ない。」
という心強い返答が。


ふーん。ユカタンの木は硬いのか。なんにせよ虫が入れないってことが何より嬉しい!


と、喜びながら調べてみると、出てくる出てくる、なんとユカタン半島は多種にわたる高品質な材木の産地だったのです。
なんでも、州都であるチェトマルのほうに深い森が多く、立派な木がたくさん生えているのだとか。
ユカタン半島は石灰質でできているので地表の土は薄く、そのために低木ばかりだと思っていました。
実際、カンクンやメリダなど、半島の北側は低木が広がっていますが、半島の付け根の地域はそうでもないようです。


ちなみにそのマデレラ(材木屋)兼カルピンテーロの取り扱っている木は

Cedro(杉)
Caoba( マホガニー材)
Pino (パイン材/松)
Tzlam (Caribian walnut/くるみ) 
Zapote (ユカタン限定/柿みたいな果物の木) 
Chechen(カリビアンローズウッド/紫檀) 
Machiche (Caribian mayan cherry/桜みたいな木) 
Catalox (Ebony/黒檀)


などなど。
呼び名がマヤの言葉なのか聞きなれない名前ですが、調べてみるとどれもこれも楽器や家具などに使用されている高級無垢木材ばかりです。


近年では、その価値に目をつけたマフィアが国定公園や自然保護区に侵入して違法伐採を繰り返し、売りさばいて資金源にしていることからワシントン条約に登録されている木もいくつかあると聞きました。
いろんな意味で残念ですが、宝の山、ならぬ宝の森であることは間違いなさそうです。







さて、そんな貴重な材木が無造作に並んだマデレラ兼カルピンテーロの倉庫で、家具に使用する木を選ぶところから始めました。
なんせ彼には初めて頼む仕事だったので、まずは小さい作品を作ってもらって彼の腕を見ようということになりましたた。


最初に選んだのはユカタン限定の果樹、Zapoteを使った一人用の机と椅子。
Miaが自分の体のサイズに合わせて図面を書き、オーダーしました。
そして出来上がったのがこちら。







うん。いい感じです。
色合いや雰囲気はとてもいい感じ。


ただ、虫がつかないくらい硬い木だということで、むちゃくちゃ重い。
さらに表面には無数の穴が。
それを埋めるパテの色も浮いています。



穴を埋めるピンク色のパテ。



この仕上げはちょっと…と思い、どうしてこんな感じなのか聞くと、
「Zapoteは穴が多いから…」

…じゃ、じゃあ穴の少ない木はどれなの?と聞くとTzlamがいいとのこと。

それは最初から教えて欲しかったと思う気持ちをぐっと押さえ込み、
それじゃあ次は、天板には穴が見えないようにしてね!と念押ししてから、食卓用の机と椅子をオーダーしました。


ちなみに、カルピンテーロはあくまで木工作業の職人なので、椅子のスポンジはつけてくれません。
スポンジはスポンジで、タピセリアという職人に依頼しなければいけません。
タピセリアは椅子やソファの張り替え職人です。


そして、オーダーしてから待つこと1週間。期日どおりに仕上げてくれました。
出来上がったとの連絡を受けてまたプエルトアベントゥラスへ。
Miaが受け取りに行くと、あとはタピセリアでクッションを貼るだけという状態だったようです。
タピセリアは同じ町内にあるのですが、そこまでは自力で運ばなくてはいけません。
椅子を運んで、タピセリアに頼んで、ビーチで待つこと3時間。。。


ついに完成!
いよいよあとはカンクンまで運ぶだけ、という時になって、
500ペソで運んでくれるという約束をしていた店のオーナーの姿が見えません。


不穏な展開を恐れながらオーナーに電話をすると、
「別の用事が入ったから、もう今はプラヤデルカルメンだ。」と。
時刻は4時半。そして約束していた時間は5時。


私はその時仕事をしていたのですが、Miaから怒髪天を衝く絵文字で怒りのメールが送られてきました。

メキシコでは怒っても決して解決はしません。でも、腹は立ちます。
その代わり、困っていると誰かが現れてきます。それもメキシコ。


この時もしかたなく代わりの人を探してもらうと、1300ペソならいけるよーという人が現れました。
料金が倍以上、上がったことにはもちろん納得できませんでしたが、机と椅子4脚は普通の車で運べないため、他に手段も無く、なんとか1000ペソに値切って家まで運んでもらいました。


そんな汗と涙の思い出が詰まったテーブルがこちら。







いい感じです!


細かい部分で気になる点があっても、木から選んでデザインを決めて作ってもらった無垢の木でできたオーダーメイドのテーブル。
使っていれば日に日に愛着が湧いてきます。


アベントウラスまで通った灼熱の日々。(我が家の車にはエアコンがない。)
天板の仕上がりを見た時の残念さ。
タピセリアの裏切り。(料金が一週間で上がった。)
そして、オーナーの裏切り。


終わってしまえばそれまでなのですが、最中はやっぱり大変でした。
交渉から運搬までMiaが本当によく頑張ってくれました。


これで料金は椅子4脚がセットで6500ペソ。別途タピセリアでの張り替えが1脚150ペソ。
クッション部分のリネンの布は持ち込みなので布代が450ペソでした。
このリネンの布を探すのもまた大変でしたが…きりがないので割愛します。


それから毎日ご機嫌で大切に使っていたのですが、ふと気がつくと机の表面にコップのあとが残ったり、ひび割れができたり…



その度に、せっかくあんなに頑張ったのに…と、絶望的に落ち込みますが、どうやら無垢の木で造られた家具では起こる現象のようです。

…でも椅子もなんだかガタガタしている…。
残念ながら、今回のカルピンテーロの腕はいまいちだったようです。。。。



そんなわけで、ただいまひび割れを補修する蜜蝋を探しているところです。
探しているものはことごとくどれも簡単には手に入りませんが、いい経験です。


メキシコの職人文化と貴重な資源とデザインの掛け合わせのおかげで、なんとも言えない豊かな暮らしを送らせてもらってます。